BSDW
5.とにかくアナタもバレンタインには十分気を付けましょう。
「あっ、そうだ!!雷太に言わなきゃいけないことがあったんだ!!」
音野が忘れてた、とハートつきでカワイ子ぶる。
クロさんもカワイ子ぶる。
雷太はそんなことさらりと無視して、話を聞く。さすが幼馴染。突っ込むべき所をわきまえているなぁ。
「雷太が起きたら、女子寮前まで来て欲しいって、橋本ヨーコさん(17歳)が言ってたよ。(はあと)」
音野は裏声までご丁寧に使って、女の子の声を真似る。
しかも、はあとまで付けてくれた。
ありがとう音野、ここまでやってくれるなんて思わなかったよ。
やってくれる人はレアなはずです。普通の人は真似できません。いろんな意味で。
が、雷太はその声の美しさに感激したのか、それともよほど気持ち悪かったのか、ガタガタガタと脅えまくり。
ん、幼馴染よ、どうしたーだ?
(なんだ!?呼び出されて、「有り金出さんか、出さへんかったら、痛い目会うでぇ!!」とか「ア●パンマン!!新しい顔よ!」っていきなり叫んで、顔を投げつけられるとか!?)
雷太はどうやら、ヨーコちゃまにボコにされる!!という危機感が募ったようですねぇ。
いやぁ、確かにそれは大変ですねぇ。特に後者(!?)
対抗戦のときの時点でも凄かったし…次は命はないかもよ?
「嫌だーー、まだオレは死にたくないーーーー!!!!!!」
と、雷太は断末魔の絶叫に今すぐ変わりそうな叫び声をあげて、音野の前から光速の545.7倍の速さでダッシュをかけようとしたら、音野に手を掴まれて、音野は裏がないと犯罪レベルの笑みをにこにこーと浮かべた。
「ダ・メ・だ・よ、ら・い・た・く・ん♪逃がしたらこっちの命がないんだから♪」
どす黒い炎を漂わせながら、音野は、何もなかったはずの手にいきなり現れた謎のロープで、雷太を縛りあげようとしている。
音野、情報屋だけじゃなくてマジシャン兼任だったのか?!と雷太はつっこまずに、全速力で音野から遠ざかろうと、音野にくるりと背を向けて、メロスもこんな感じでどかどか走ったんだろうな…と思うぐらいの素晴しい走りを披露した。
ただし、メロスとは正反対に友から逃げているわけですが。
「ああん、もう!!雷太!!逃げちゃだめだよー、もー!!!」
音野は楽しそうに言いながら、雷太の背中を追う。クロさんもね。とっとことっとこ!
男子寮を抜け(先生に、廊下を走るなと注意されたが、ガン無視。)、雷太は、特に考えもなく適当に走り回って音野を撒こうとしていた。
音野は、体力的には雷太よりも劣っている。
つーか、普通の同じ年頃の平均的な少年よりも劣っている。
なので、雷太はじりじりと音野を引き離していた。
よっしゃー、もうちょっとで音野を振り切れてるぜ…桜ちゃんが俺のことを待ってるぜ!!
※待ってません
「雷太!!」
音野から逃げ出すのに、全身全霊を傾けていたので、まーったく全然気が付かなかったが、ここは女子寮の前だ。
んで、そこにいるのは勿論、雷太を呼び出した…ヨーコさんですね。桜ちゃんがいたりはしませんよ。
物凄く嬉しそうな表情を浮かべながら、天使の言葉…雷太にとっちゃ死神の呪詛にしか聞こえない言葉をつむぐ。
「ちゃんと来てくれたのね。逃げるかと思って、こっちから行こうと思ってたんだ。」
「好きで来たんじゃなくて、やむを得ず不慮の事故で来てしまったのだよ、ヨーコ君。そして、これはまことに不本意なのじゃ。」とも言えず、彼自身の髪の毛並にコチコチになる雷太君。
逃げ出したくとも逃げられない。
そう、ラスボス戦にレベル1で臨んでしまってどうしよう!?ってな具合です。
ラスボス手前までレベル1で潜り抜けたのなら、心配なさそうですが。
例え、逃げたとしても無駄。
ヨーコの運動神経は人間の限界を超えている。
宇宙人からきっと秘密の手術を受けたんだ!って思うぐらい。(という噂)
きっと、本気を出せばマッハ5で走れるのだ!間違いない!
で、もう一つ気が付くべき点。ヨーコさんの手には何だか妙に見覚えのあるBox!!(皆さんもご一緒に、リピートアフターミー。ボォックス!!)があった。
朝とかに見たような気がしたりしなかったりする。
これぞ生存本能とも言うべき勘の警告を受けて、雷太君冷や汗だらだら。でも、頭は崩れない。
じりじりとヨーコから逃れるように、後ろに下がる雷太。
そして、一歩踏み出すヨーコ。
最後の悪あがきを試みる雷太に、ヨーコはトドメを刺すぞとの警告を与える。
「ねっ、これ受け取ってくれるわよね。」
にこにこと、この世の全てを魅了できそうな微笑で詰め寄るヨーコ。
ただ、その微笑には僅かに唇の端がぴくぴくと痙攣を起こしたかのように引き攣ってます。
な、何かこういう顔したオンナノコって怖いヨネ。
その微笑によって、雷太の生存本能が告げる「受け取るな」という精一杯の警告に逆らい、手が半強制的に上がっていく。
そして、
「は…はい……。」
雷太の聞こえるか聞こえないかぐらいの音量の声を聞き取って、ヨーコは今日一番の極上の笑みを浮かべた。
この後の展開は、皆様の想像にお任せしよう。
ちなみに、
「最初から素直に受け取って、捨てればよかったのに…。」
その夜は、音野の悲鳴が、学園中に響き渡ったとか、響き渡ってないとか…。