BSDW


1.バレンタインって平和な日だっけ?


20××年2月14日。今日はバレンタインデー。男も女も浮かれる平和な日。
男子の中で壮絶なチョコ争奪戦争が繰り広げられている地域もあるらしいが、それはほんの僅かな人数のみ。
鼻たらして、とぼとぼのそのそ歩くやつなど、今日がバレンタインであることすら忘れていそうだ。いや、覚えていたところで、彼にこの行事は関係はあるまい。
そんな中、一人の少年がいた。どこかの学校の制服と思しき服を着ているが、この辺の普通の学校の制服ではない。
その服は、軍人を育てる学校の制服だった。
その軍人を育てる学校では、年齢に関係なく成績でクラスを分ける、階級というものがあり、その階級は下から順に、銅、銀、金である。
そして、その少年はその階級のストライクど真ん中の銀の階級証をつけていた。
その少年はセットするのに何時間と掛かりそうなつんつん頭の上で手を組みながら、ふらふらとアスファルトの道を歩く。
途中、同年代の普通の学校の女の子の群れに、頭を指を指されるシーンもあったりする。
そして、少年はその普通の学校の女の子の群れとも離れ、軍人を育てる学校へと入っていった。

学校の門をくぐった途端、女の子の声に少年は引き止められた。

「ねぇ、雷太!今日はバレンタインだよね!」

その声の主は、意志の強そうな少し吊りあがった眦に、整った顔立ち、よく手入れされている髪を一つにまとめた――いわゆる美少女である――だった。
そんな普通の男子なら、声をかけられて舞い上がるような少女に、雷太と呼ばれた少年は、

「そうだっけ?」

と素っ気無い答えを返すだけだった。つんつん。

「そうなの。その、だからこれ…」

と、少女は丁寧に梱包された手のひらサイズの箱を雷太に差し出した。
何か、もう分かりますよね。尚、登校していきなりかよ!という声は無視させていただく。
しかし、雷太はチョコを、しかも美少女から手渡された、それを受け取ろうとしなかった。

「悪い予感がするからいらない。」

とまで言い放った。
何て野郎だこのやろう!!これじゃあ話にならねぇぞコンチクショー!!という叫びも無視させていただく。
それを聞いて少女は、

「なにそれ。人が丹念に作り上げたチョコを拒むなんて。」

少女はムキになったかのように言い返した。おお、強気ヒロインの典型ですね。

「うーん、桜ちゃんからなら喜んでもらうけど、相手がお前だからなぁ。」

おいおい、そこまで言うか少年!!相手は仮にも美少女、ヒロインの座をとるにゃ十分の資格がある娘っこだぞ!!お前は頭のつんつん度が異様に高いだけの少年だぞ、それこそヒロインと一緒にいなきゃ目立たないんだぞ!! 出番少なくしてくれって主張してるようなもんだぞ少年!!
しかも、桜ちゃんなる少女の名前まで挙げている。なんて悪質なやつだ。もうお前に存在価値はない!!

…といわれても仕方あるまい。

「いいから!貰いなさいよ!」

強気ヒロインはめげない。
そう、ヒロインはめげてはいけないんだから。

「いや。」

しかし、少年は即答。
…君はヒーローというわけでも、まして、実はヒロンです☆という設定もありません。

「受・け・取・れ!!」

それでも、強気ヒロインはめげない。そう、ヒロインはめげてはいけない。
活用が命令形になっても、めげてはいけない。

「い・や・だ。」

お前みたいな脇役は、はよぅめげろっちゅうねん!

「ウッ…ひどいわ!!せっかく徹夜して作ったのに…。」

少女は半泣き状態に陥った。ついに、めげてしまったヒロイン。コートの中では泣いちゃだめよ。

「…。」

しかし、脇役風ぜ…ごほごほ、雷太は無言だった。じぃっと少女の半べそ姿を見てるだけだった。
そして、彼はすたすたと校舎に入っていった。
無数の色々な痛い視線(うっわー、女の子泣かしたよあいつ、とか、俺らのアイドルを泣かせやがって、このつんつん頭ぁ!!土下座して謝れこの野郎!!!とか、んーなにがあったの?僕ちゃん良くわかんなーい、とかその他諸々。尚、教育上宜しくない過激なものはカットさせていただきました。)に晒されながら、彼は震えていた。

(あいつのチョコは…この世のものじゃない…。)

思い出すのに、寿命が6.5光年は縮まる(注:良い子は年月を表す時に光年を使っていけません。)去年のバレンタインデーを思い出して、体に震えが来るのを抑えられなかった。

去年、同じクラスで、全校の男子の注目を集める少女が二人いた。
その少女たちの名は、橋本ヨーコ、樹下桜。
先ほどの少女は橋本ヨーコ。きりりとした勝気な少女で、別名女王とか呼ばれてるとか何とか。
対して、樹下桜は大人しく、おどおどした少女で、守ってあげたい指数100パーセント越えという、ヨーコとは正反対の少女だった。
雷太は、自分は髪の毛以外は目立たないやつだと思っていた。(事実そうです) なので、自分にはバレンタインデーなんて関係ないと思っていたので、周りのクラスメイトが、チョコを持ってきて先生に怒られる場面がよく見られるだけのちょっとうるさい日としか認識していなかった。(あー、またやっとるわーこりねぇなぁー)
ところが、突然去年も今年と同じように、突然登校してきた雷太に向かって、頬を赤らめながら、ヨーコがチョコを渡してきたのだった。
まぁ、そこで雷太は断る理由も見つからないし、本日のおやつにでもしようとありがたく頂戴しておいた。(チロル○ョコでもタダでは買えないんだよ)
向こうがどんな気持ちで、また、どんな意味を持ってチョコをくれたかなど深く考えずに、ただ男子に義理チョコを配って歩いているのだろうと勝手に納得して。(女子ってそういうところあるじゃん)
そして、学校を終え、寮で(この学校から少しはなれたところに寮があるのだ)、丁寧に梱包された箱を開いたら…。

包みの中には、チョコというよりは明らかに、水を大量に含んでどろどろな泥に近い物体が、「俺がこの箱の中の主だ、文句あんのか。」と言わんばかりに納められていた。
いや、物凄く文句言いいたいんですけど。
そう泥にも言えず(言ってどーするよ)、その物体の前で立ち尽くすだけだった。
そして、数秒後、彼に真の悲劇が襲い掛かってきた!!
彼はヨーコの作ったチョコを、まぁ女の子…いやいや人間が作ったものだし、食べても食中毒起こしたりはしないだろうと舐めて掛かったのだった。(死なないよー多分)
しかし、そんな浅はかな考えが命取りだった。
恐る恐るスプーンですくって、箱の中に鎮座している泥にしか見えないチョコらしい物(液体)を食べる…っていうより、飲んでみたら。

バターーーン!!

3時間後。

「あれ、雷太どうしたのこんな静かで…って、おわっ、何か踏んだ!!ん?これ雷太じゃん!!雷太、起きないと顔に落書きして学校のさらし者にしちゃうよ?ねぇ雷太?返事がない?むー…雷太はそんなにさらし者にされたいんだね、分かった!!じゃあ、お望みどおりに!!

……………あれ、でも何で雷太こんなところに倒れてるんだっけ?まぁいいか。」

それからと言うもの、ヨーコは雷太が自分の気持ちに気が付いたと思い(込み?)、一緒に行動するようになった。
しかし、雷太は学校を一週間休ませた少女に脅えていたのだった。
世界平和を邪魔する兵器を作れる女を脅えない理由がない、と。
また、あんな琵琶湖のそこに何年も沈ませておいた熟成泥のような物体を渡されやしないかと、戦々恐々とこの一年学校に通ったものである。
そして、その恐怖は淡い期待を裏切って、今年もやってきてしまったのだった。
ヨーコのチョコ??の攻略本が売られていたのならば、今月のお小遣いの2500円以内のお値段なら、愛読書の月刊少年○ャンプを我慢してでも買いたいぐらいだった。
あ、でもHUN○ER×○UNTERの連載再開されてたら、多分買っちゃうだろーなー…。